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Ophiuchus~プロローグ


昔々、遥か昔、
まだ神々がオリュンポスの頂きにお住まいだった頃のお話です。

夏至の夜に毎年とある祭が開かれます。
オリュンポス12神を賓客にあまたの神々がお祝いに駆けつける賑やかな祝祭です。
このお祭りの目玉は13の歌女神による大合唱です。
彼女たちは黄道それぞれの守護神で太陽神アポロンに仕えておりました。
真夏の夜に神々は艶やかな女神の歌声に酔いしれるのでした。

ある年の祭のことでした。
独唱のパートで蛇使い座を守護する女神は失敗してしまいます。
急に声が出なくなってしまったのです。

この年の合唱は失敗に終わり神々は大いにがっかりしました。
このことを恥じたアポロンはこの女神を合唱隊から外し、
次の年から12の女神だけで合唱が行われるようになりました。

すっかり自信を亡くした蛇使い座の女神はオリュンポスを下山し荒野を彷徨うのでした。
ある日、蛇使い座の女神は一人の魔女と出会います。魔女は言います。
「貴女様を合唱隊から外すなんてアポロンは間違っている。
13の女神の中で貴女様の歌声が一番すばらしいのに!
私とともに分からず屋で愚鈍なアポロンに復讐をしましょう!」

そして蛇使い座の女神は魔女の手を取りました。

2~とある女神の話~

深い夜の淵、月明りの照らす中でその女神は歌っていた。
やがてその清廉な歌声は音楽の神アポロンの耳にとまる。
歌に合わせて竪琴の音が加わり、それは美しい音楽となった。

この出会いがきっかけで女神は女神の合唱隊の13番目の歌女神として選ばれた。
大変な名誉に女神は大いに喜んだ。

合唱隊のお披露目の宴の前夜、突然に女神は合唱隊から外されてしまう。
在ろうことかアポロンはその13番目の席に自分の娘を入れてしまった。

アポロンとアポロンの娘へ憎しみが止まらない女神は冥府の神ハーデスのもとへ赴く。
ハーデスと契約した女神はその神格と引き換えに呪いを授かった。
この呪いはアポロンの娘から歌声を消す呪いであった。

呪詛を施すべく女神は宴の会場へ忍びこんだ。
まだ宴は準備途中でなんの供物も無く神々の姿も無かった。
だが、光の当たらぬステージで一人の稚い女神が歌の練習をしていた。
アポロンの娘である。

その瑞々しい歌声に女神はつい聞きほれてしまった。(なんて楽しそうに歌うのだろう)
圧倒されつつも、彼女の様に屈託なく歌う立場が自分であったかと思うと仄暗い焔が心を燻った。
そして女神は呪いを放った。彼女が歌えなくなれば自分が呼ばれるんじゃないか。
そんな淡い期待も抱いた。

結局、期待は裏切られた。娘が歌えなくなればアポロンも苦しむに違いないと思ったのに、
彼は歌えなくなった娘をあっさり追放してしまった。なんと薄情な神なのか。

アポロンが堪えないのなら娘を使って合唱隊を壊滅させてやろうと思った。
そんな醜いい復讐心から近づいただけだった。原因が自分であるのに希望を失い荒野を彷徨う様は、
昔の自分の様で「可哀想」なんて思ったけれど、そんな心には蓋をした。

道すがら蛇使い座の女神と話をした。あきれたことにまだ合唱隊に戻りたいのだと言う。

「意に反して私が合唱隊に戻れれば、お父様の面目が潰せます」そんな復讐で良いのか。
なんと生ぬるいのだろう。でもこのおめでたい頭の女神を使えば
12の女神に怪しまれずに近づけるかもしれない。仕方ないから付き合うことにした。

牡羊座の女神に会った。自信を取り戻す為に歌の練習をするのだとか。
何度やっても蛇使い座の女神は上手く歌えなかった。蛇使いはまた落ち込んでしまった。

「貴女は才能がお在りです。諦めないで。」そんなこと思っても無いけど励ましてあげた。

ここで諦めらたら復讐の計画が台無しである。仕方ないので蛇使い座の女神の呪いを解いてやった。
彼女が歌えようが無かろうが計画には関係ないだろう。
弱弱しくではあるが蛇使い座の女神は歌声がでるようになった。
「ありがとう、貴女のお蔭ね」律儀にお礼なんか言われた。

そして、蛇使い座の女神は歌の練習を再開する。何だか変な気分になった。
面倒なのでまた心に蓋をした。たどたどしい歌に心地よさを感じて目を閉じた。

それから他の女神達にも会ったが難色を示した。どうも蛇使い座の女神には協力してくれなさそうだ。
協力的なのは牡羊座と牡牛座と乙女座の女神くらい。こんな女神達なんて歌えなくなれば良いのに。

次は歌を奪うことにしよう。蛇使い座の女神に蟹座の女神の歌声を奪うようにそそのかした。

蛇使い座の女神は拒否した。何故なのか、貴女だって私と同じ思いをしたのだからわかるでしょう?
蛇使い座の女神の躰を乗っ取ってやった。2人で復讐しましょう。独りは寂しいもの。

私の企みは破られた。
忌々しい女神たち。

海に堕とされ深く深く沈んでいく。
ただ歌いたかっただけなのに。

誰かに認められる必要なんてあったのだろうか。
あの稚い女神の様に楽しく歌いたかった。

貴女の歌が恋しい。
本当は貴女と一緒に歌ってみたかった。

叶わない願いを抱き消えるのだろう。
そう諦めた瞬間、誰かが手をつかんだ。

「諦めないで」
求めた声が聞こえた気がした。

前に自分が彼女に言った言葉かもしれない。
そんなことを考えていたら躰が浮上した。

目を空けると青空とずぶ濡れの貴女。
なんとおめでたい頭の女神なのか。

私は口元が緩んだ。
貴女も同じ表情をしていた。
大嫌いだけど大好きなもう一人の私が。

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