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Changeling

1.悲しい連鎖の始まり

とある妖精の国。そこは美しく豊かな黒髪の女王が治める国でした。
しかし、女王は自分の黒髪が嫌いでした。

女王の赤子もまた豊かな黒髪でした。
しかし、わが子の黒髪を見るたび、つらい気持ちになりました。

ついに気持ちを抑えられなくなった女王は、
自分の赤子と人間の赤子を取り替えてしまったのです

 

人間として育てられた妖精の子供は、名をユオといいました。
ユオは自分の見た目が嫌いでした。
なぜなら人間の両親とは姿がまったく違っていたからです。
ユオもまた実の母と同じように黒髪を嫌うようになりました。

ユオは他の子とは変わったところがありました。
みんなには見えない、なぞの生き物たちが見えたのです。
妖精の子ですから、当たり前のことなのですが、知る由もありません
ユオは一人でいることが多くなりました


ある日ユオは不思議な生き物たちに導かれ、妖精の国へと入ってしまいました。
そこは見たこともない生き物たちにあふれ、なぜだか懐かしい空気がしました。
ユオが妖精の国に入ったことで、空気がざわざわしました。
空気の違和感を察知して、すぐにやってきたのは妖精の子リリでした

リリは妖精の女王の子供でした。
この世界の管理を任されている子で、とても美しい金髪の片羽の妖精でした
ユオはひとめでリリの美しさに魅入られてしまいましたが、
リリも、自らの母と同じ美しい黒髪のユオに魅せられてしまいました


リリもまた母と違う姿の自分が好きではなかったからです。
2人は周りの大人たちに隠れてひそかに森で会うようになりました

 

2.明かされる真実

 

妖精の子でありながら人間として育ったユオ
人間の子でありながら妖精として育ったリリ

2人は妖精の女王に取り替えられた子供でした。

人間として育ったユオは不思議な生き物たちが見えたことで
幼いころから村の人々には気味悪がられてすごしました。
ユオの両親も自分たちとは姿の似ていないユオをやはり気味悪く思っていました。
ユオの居場所はどこにもなかったのです

一方
妖精として育ったリリは、女王の子でありながらなんの力も持ってはいませんでした。
本来なら2枚あるべき羽も1枚しか持たず、その羽も自らのものでないことを皆が知っていました
しかしながら、持ち前の明るさと、魅力的な姿で皆からは愛されて育ちました
ですがリリ自身は自分の姿をよしとしてはいませんでした。母のような黒く美しい髪が自分にも欲しかったのです

2人はお互いに欠けたものを埋めるかのように毎日のように会い、語らいました。
ユオは森にいることが多くなり、村へは帰らない日々が続きました。

ある日2人がいつものように語らいながら湖のほとりを歩いていると、シルフィードたちがちょっとしたいたずらを仕掛けました
突風でリリをあおり、湖に落とそうとしたのです。

シルフィードたちがいたずらを仕掛けてくるのはいつものことでした

しかしユオは初めてのことにあわてふためき、リリの手をつかみ助けようとしました。
が、後一歩のところでつかむことができず、リリは湖へ・・・・
リリを追って手をつかもうとしたユオもまた湖へ・・・・

そのときユオの背中から激しい光がはじけ、リリとまったく同じ片羽が現れたのでした。
その瞬間、リリとユオの周りだけが時間が止まってしまったかのように
シルフィードたちはうごかなくなり、風に舞っていた葉さえも空中で止まっていました。


ユオとリリはお互いの手をしっかりとつかみ、地面に足をつけると、
ほっと息を吐きました。

そのとき2人の後ろに大きな黒い影が現れ・・・・
それは黒髪の女王でした・・・・氷のような眼差しで2人を見つめていたのです。

 

女王はユオの羽を改めて封印しなおすと人間の世界へと帰るよういいました
ユオはもちろん人間の村へは帰りたくない、居場所がないと訴えましたが、女王は聞く耳持たず
ユオは妖精の世界から追い出されてしまいました。

リリは一部始終を見守っているだけでした。


女王がユオを追い出し、リリを残したとき
リリは安堵していました。自分がここにいてもいいのか。という安心感
しかしそれはすぐにユオに対する罪悪感でいっぱいになり、
ユオから奪ってしまった羽の力を使うことができなくなりました。
(ユオの羽をひとつ取り、リリにつけたのは女王ですが・・・)

人間の世界に戻ったユオにはただいつもの生活が待っているだけでした。
周りの皆から相手にされることはなく。両親からも気味悪く思われる生活の繰り返し。

妖精の国に残ったリリも羽の力を使わなければただの人間
何の力もないリリ。罪悪感からか、明るさも失われ暗くなってしまったリリは
皆からも次第に相手にされなくなってゆきました

2人は自らの存在に疑問を抱き、なぜ交換されなくてはならなかったのか
なぜこんな理不尽な扱いを受けなくてはならないのかと思い始めます

 

Changeling外伝

3.運命の歯車

ある東にある小さな村。
アニという少女がおりました。
アニとアニのの母は踊り子で、2人は旅芸人の一座と色々な国を周り生活していました。
アニは黒い髪に透き通るようなブルーの瞳で、この国では珍しい容姿だったので
しばしば一座の皆からは仲間外れにされていました。

大きな街に立ち寄った時
アニが一人で市場を見て回っていると、不思議な店がありました。
店にはたくさんの鳥かごが置いてあり、かごの中はどれも淡くひかっておりました。
アニが鳥かごに近づいてみると、中で光っているのは妖精でした。

妖精はアニの両手に収まる大きさで、人形のようにかわいらしく
透き通った紫の羽をもっておりました。


アニが話しかけると、妖精は少し驚いて、
「びっくりした、あんた私が見えるのね」といいました。


「・・・?みえるわ。きれいなむらさきの羽・・・」
「おどろいた。普通の人間には私たちはぼんやりとした光くらいにしかみえないのよ」

アニと妖精が話をしていると、店の奥からおばあさんが出てきました。
すると妖精は小声で「気を付けて、こいつは魔女よ」と言いました。

おばあさんは、アニの瞳をのぞき込むと
「ほうほう。これはおもしろいねぇ。これはいい。」と意味の分からないことを言い、
「この妖精をおまえさんにやろうじゃないか。」と、アニに妖精の鳥かごを渡すのでした。

アニはただでは貰うことはできないと断りましたが、妖精が「私を連れて行って」と頼むので
後で逃がしてやるつもりで、受け取りました。
アニが帰ろうとすると、おばあさんは
「運命の歯車が回りだした。もう止めることはできないよ」といい
霧のように消えてしまい、もう店を見つけることはできませんでした。

アニが妖精を籠から出してあげると
妖精は、「私たちの森にきてみない?」と誘うのでした。
すぐに母のことが思い浮かびましたが、一座の皆のことを思い出し
仲間外れの自分がいなくてせいせいするだろうと思い
妖精についていくことにしました。

妖精は、「早速森に帰りましょ。わたしと一緒に跳ぶわよ」というとアニの手を取りました。
その瞬間、突風が吹きアニは飛ばされたかと思うと、ふわりと浮いていました。
ここはどこだろうと、あたりを見渡した瞬間、突然地面に落ち、おしりを強く打ちました。
アニが恨めしそうに妖精をみると、妖精は得意げに「着いたわよ、ここが私たちの国!」と言いました。

アニがあたりをゆっくりと見渡すと、美しい湖がキラキラと輝き、その周りには
小さな妖精や大人の姿をした妖精、見たことのない生き物たちがあふれておりました。

不思議な生き物や妖精たちは、すぐにアニの存在に気づき、わらわらとアニの周りに集まってきました。
「人間の子だ。人間の子だ。」「珍しい姿をしておる、美しい黒髪だ」
妖精たちはアニの容姿を珍しがって、アニの髪を引っ張ったり、瞳をのぞき込んだりするのでした。
アニは妖精たちから逃げようとしました。

妖精たちは珍しいアニを逃がしたくはありませんでした。
皆がアニを囲んで引っ張って、アニを離そうとしません。
そのうちアニは嫌になって暴れだしました。


穏やかだった湖が一気に騒がしく、森もざわざわと騒ぎ出しました。

「一体何事だ。」
突然空から声が降ってきました。そして空気が一気にぴんと張りつめました。
妖精たちも一気におとなしくなりアニから手を放して、声の主に道を開けました

声の主は青年の姿をした妖精でした。


ただ、ほかの妖精たちとは違い、虹色にきらきらと光るとても大きな羽をもっていました。
それから金色のとても長い髪を後ろに流しており、美しい顔立ちをしておりました。

アニはその妖精から目が離せなくなり、じっと見つめたままでしたが
虹色の妖精もまた、アニをじっと見つめ、目を離しませんでした。

アニと妖精の王が出会った瞬間でした。

Changeling外伝

4.別れと影

 

不思議な市場で出会った妖精に連れられて、妖精の森を訪れたアニ
アニは森で美しい妖精王に会う。
アニは美しい虹色の羽をもつ妖精王に惹かれ、王もまた、触れたことのない外の香りがするアニに惹かれるのでした。


アニは3日森で過ごし、母が心配するからと帰ろうとしました。
王はアニを帰したくなく、また絶対に来てほしいと約束をし、アニが逃がした妖精を共につけたのでした。

アニが人間の世界に帰り、街に戻ると、母はもうそこにはおりませんでした。
旅の一族全員がもうその街にはいませんでした。

妖精の森と人間の世界では時の過ぎる速さが違ったのです。
アニは3日過ごしたつもりでしたが、実際にはひと月も過ぎていたのです。
アニの母や仲間は旅芸人。
同じ場所にずっととどまっていては生活できません。
アニは置いて行かれたのでした。


母もがアニを置いていったということが、アニの心を深く傷つけました。
アニは一人ぼっちになってしまいました。

妖精が、森にもどろう?といいました。
アニはただ黙ってついてゆくしかありませんでした。
アニもどうすればよいのかわからなかったのです。アニはまだ14,5歳の子供で、ただ孤独でした。

妖精王はそんな傷ついたアニを優しく迎えました。
悲しく一人ぼっちだったアニとできるだけ一緒にいて、あたたかく見守ったのでした。
そんなアニも王に心を開いてゆくのでした。

そして3年の月日が流れました・・・

アニの外見はもう立派な大人の女性でした。
アニは人間。森では時が早すぎました。
あまりに成長が早すぎて、森に来た頃は身体がついていかず。
寝てばかりの頃もありました。
そんなアニに王は自分の片羽を渡していました。
羽をもらうことでアニの時は緩やかになりました。
しかし、妖精にとって羽は力の源。自分の命を半分アニに預けているようなものでした。
美しく成長したアニと妖精王は愛し合うようになっていたのです。


しかし、それをよく思わないものがいました。

海の女王メロウでした。


メロウは妖精王の婚約者でした。
メロウはうねるような黒髪とギラギラとした金の瞳
腰から下はうろこに覆われた巨大な海蛇でした。

醜い姿で誰からも愛されないメロウ


しかし、その歌声は美しく、美しい旋律で海へと気に入ったもの達を引き込むのでした。
メロウは醜く一人ぼっちでしたが、大きな力を持っていました。
そして美しい妖精王が未来の夫となることが彼女の希望でした。

ところがアニが現れたのです。
王の片羽をもっているだけでも、十分気に入らないメロウでしたが、
アニが妖精王の子を身ごもったのでした・・・・


メロウはアニとおなかの子を殺そうとしました。
そんなことをすれば、妖精王からは一生愛されることはない
自分はただ憎しみの醜い塊なのだとわかっていても、メロウもどうすることもできませんでした。
ただただ怒りをアニにぶつけたのです。

メロウの力は巨大なものでした。
妖精王といえど、力の源である羽が片方だけでは到底太刀打ちできるものではありませんでした。
しかし、アニから羽を取り戻し、力を使い果たせば、アニと子供は死んでしまう・・・・

王は両羽をアニに渡し、守ることを選びました。
妖精が両羽を失う、それは死を意味しました。


両羽はアニと子供を守ってくれましたが、メロウの力は強く
メロウは滅ぶと同時におなかの子に呪いを残しました。

アニはまたも一人ぼっちになりました。
それでも、妖精王の子を大事におなかの中で守り
ついに無事産み落としたのでした。


うまれた赤ん坊は自分にそっくりな黒髪でした。
そしてメロウと同じキラキラと光る金色の瞳で
背中には妖精王と同じ虹色の羽がまだ小さく光っておりました・・・

アニはなぜか自分の子供をいとしいと思えなかったのです。
自分と同じ黒髪だから?


この子がいても妖精王は消えてしまったから?
この子が王にちっとも似ていないから?

なぜ愛せないのか・・・・苦悩するアニ

アニの子はメロウの呪いにかけられたのでした。
メロウと同じ誰にも愛されない呪いでした。

アニはその子をユオと名付けました
アニは愛せないユオを見るたびつらい気持ちになり、自分を攻めるのでした。


そしてつらさに耐えられなくなったアニは、ついに人間の子リリとユオを取り換えてしまうのです。

悲しい連鎖の始まりでした。
 

Changeling

5.運命と交換


妖精の子でありながら人間として育ったユオ
人間の子でありながら妖精として育ったリリ

2人は妖精の女王に取り替えられた子供でした。

自身が妖精であることを知ったユオは、妖精の世界へ帰りたいと母である女王に訴えます。
しかしメロウの呪いにかけられたユオ・・・
女王はユオを愛したいと願いながらも、また拒絶してしまいます。


ユオは人間の世界へ戻され、周りの皆から相手にされることはなく。
変わらず両親からも気味悪く思われる生活の繰り返しでした。

一方、自分が人間で、ユオの片羽をもらって生きていたと知ってしまったリリ
妖精の国に残ったリリも羽の力を使わなければただの人間
何の力もないリリ。罪悪感からか、羽の力も使わず、明るさも失われ暗くなってしまったリリは
皆からも次第に相手にされなくなってゆきました


そしてリリは、この羽はユオに返さなくてはいけないと決心するのでした。

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